太古の世界 第Ⅱブログ

目を閉じて……ほら恐竜がいるよ

系統ブラケッティング法

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 これは古生物学における推測のやり方の1つだ。

知っての通り、恐竜をはじめとした古生物は現存していない。だから彼らの行動・生態の多くは永遠に謎のままだ。観察が可能な現生動物でさえ、日々新しい発見が生まれ、定説がごみ箱へダンクシュートされている。つまるところ…

「絶滅動物の行動・生態を推測するのは危険!!」

なのだ。それを理解しないでいると想像が独りよがりに突き進んでしまう。人によっては、それを「妄想」と一蹴するだろう。

仕方ないことではあるが、そう邪険に扱うなとも思う。だって…ねぇ?

 「絶滅動物の想像・考察は楽しい!!」

 ではないか。

 筆者もそうだ。

  • 飢えたティラノサウルスが、どうやって危険なトリケラトプスを倒したのか?
  • 巨大かつ半水生のスピノサウルスが、どうやって繁殖していたのか?
  • ケファラスピス*1が、どうやってウミサソリの攻撃を躱したのか?
  • 長い首のタニストロフェウスが、どんな姿勢で睡眠をとったのか?
  • スミロドンは単独で生きたのか、それとも群れだったのか?

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群れを成すユタラプトル

実際にはドロマエオサウルス類自体、群れていたかは議論が絶えない

「蘇る恐竜の時代」より ©ディスカバリーチャンネル

ちょっと考えただけで、疑問はこーんなに湧いてくる。

時に、都合良く化石に残った行動もあって…

  • プロトケラトプスに襲い掛かったまま化石化したヴェロキラプトル
  • 休息姿勢のまま化石化したメイ・ロン

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休眠姿勢で化石化した小型獣脚類のメイ・ロン

ちなみに学名の語尾に付く「g」は発音しなくても良い

「恐竜vsほ乳類」より ©NHK

こういった奇跡的な材料を元にすれば、まぁまぁ見えてくるものもある。

とはいえ、それらは例外中の例外。大半は藪の中になってしまう。

 

そんな読者にコレを薦めましょう!!

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系統ブラケッティング法

古生物学における推測の”確度”を上げる方法

「恐竜研究の最前線 謎はいかにして解き明かされたのか」(マイケル・ベントン, 2021)のP14~P16 より

 系統ブラケッティング法とは、要するに「近縁種からの推測」である。

  1. 生物・古生物の家系図を作る
  2. 判明している事柄を書き出す
  3. ”虫食い穴”の部分を周辺に揃える

↑に大雑把な手順を書き出した。…ナルホド、こりゃあ使い勝手が良い。実際の古生物学でも、例えば「恐竜色覚」は、系統ブラケッティング法によって導かれた。*2

 

(*´ω`*)ヨッシ!!…コレデスイソクシホウダイ……

 と★思★っ★て★い★た★の★か!?(威圧)

実は、系統ブラケッティング法も万能ではないどころか、致命的な欠陥もある。

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系統ブラケッティング法の”落とし穴”

この図を見れば、系統ブラケッティング法のマズさが分かるだろう。

たしかに現生のネコ科は殆どが単独性だ。トラもヒョウもサーバルベンガルヤマネコも、もはや周知の事実と言えよう。 しかしライオンだけは違う。*3 ライオンは群れで暮らす。しかも群れのシステムはオオカミに匹敵する複雑さだ。

ところが系統ブラケッティング法に、そうした特異的な形質・性質を見抜く力はない。

それに改めて列挙してみれば…

  1. 生物・古生物の家系図(系統図)を作る 家系図は確実なのか?」
  2. 判明している事柄を書き出す ←「現生動物でさえ確実な情報は少ない」
  3. ”虫食い穴”の部分を周辺に揃える 

系統ブラケッティング法の道中にも異論が挟まれる余地があるし、「子孫Aは行動Xをする」が「子孫Bは行動Xをしない」なんて相反するパターンもあろう。

とどのつまり、系統ブラケッティング法も何でも”物は使いよう”なのだ。


だからこそ筆者は声を大きくして言おう。

「古生物の推測は慎重に!!!」(*'ω'*)9

 

【参考文献】

・「恐竜研究の最前線 謎はいかにして解き明かされたのか」マイケル・ベントン(著)2021年

・「恐竜の教科書」ダレン・ナッシュ(著)2019年

・「恐竜の世界 恐竜発掘の歴史から、恐竜研究の最前線まで」金子隆一

(著)2010年

 

*1:甲冑魚の一種

*2:「恐竜の教科書」(ダレン・ナッシュ, 2019)のP23

*3:オスのチーターも群れるとされているが、ここでは省略

発見! 恐竜の墓場(5)

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【発見! 恐竜の墓場】~電光石火グアンロン

 

 それは暑さも幾ばくか和らいだ夕暮れ。こんな時間帯でも水辺は賑やかだった。山のように巨大な竜脚類から、豆粒よりも小さい昆虫まで。どんな者も生きるためには水が必要だからだ。 故に、水辺は古今東西から社交場の代わりを果たしてきたが、もっと重要な役割を果たす時もある……

 始まりは突然に!! 

舞い上がる砂煙。耳を劈く叫び。やがて騒ぎが収まった頃、孤高のハンターは誇らしげに獲物を咥えていた……

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今回の主役グアンロン。足元のユアンノテリウムは格好の獲物だ

復元画を描いてくださったのはチャンネルD氏、 監修は筆者。

捕食者の名は、グアンロンGuanlong wuaii


…誇り高き”暴君”が始祖、筆者オススメ度No.1の優美な恐竜だ(要★出★典)

前回(4)のリムサウルス特集に続き、今回(5)はグアンロン特集となる。この”ランポスモドキ”はどのような恐竜で、群雄割拠の石樹溝層でなぜ捕食者としてのニッチを確立できたのか? その謎に迫っていこう!!

 

グアンロンのい・ろ・は

学名)グアンロンGuanlong wucaii

全長)約3~3.5メートル*1

分類)獣脚亜目Theropoda>ティラノサウルス上科>プロケラトサウルス科

食性)完全な肉食*2

 

分類)

 グアンロンは最古級のティラノサウルス上科だティラノサウルスと言えば説明不要な古生物のスター。 あの恐るべき顎にかかれば、例え装甲車でも助かるかどうか……。体重6トンと獣脚類でもダントツに重く、長さばかり追い求めたスピノサウルスとはわけが違う。そんな”絶対君主”の祖先が、よもや体重100kgのライト級だなんて誰が想像しただろうか? いや、言い方が悪かった。元を問えばグアンロンのほうが”本家”であり、ティラノサウルスなどのヘビー級たちのほうが”分家”なのだ。また別の機会に深く取り上げるが、元々ティラノサウルス上科はスレンダーな小型~中型捕食者として名をはせた一族だった。しかし白亜紀中期頃から唐突に巨大化し、末期にヤツを生み出すまでに至る。そんなグループの先駆けにして尖兵……それがグアンロンだった。

 

食性)

超肉食恐竜(Hypercarnivore)

ここ5年くらい前だろうか? ティラノサウルスヴェロキラプトルの仲間を指し、こうした称号が贈呈されたのは。他の追随を許さない圧倒的な攻撃力。恐竜界トップレベルの鋭敏な感覚器。そして発達した脳……耳心地が良いのも相まって、盛んにメディアで担ぎ上げられた。

だが厳密には哺乳類にのみ適用される称号だそうなので、あまり乱用すべきではないのかもしれない。しかも超肉食”基準は、エサの70パーセントが肉であれば良い。だから初期のヘレラサウルスから我らが英雄ティラノサウルスまで、もっぱら肉食恐竜と呼ばれる者は、須らく”超肉食恐竜”なのだ

閑話休題

……エグいこと脱線したなw

ぶっちゃけてしまえば、グアンロンの捕食活動を直接示す証拠。例えば歯型なり糞化石なりは未発見だ。”恐竜の墓場”・TBB2002がそれを示唆していると言えばそうなのだが、どうにも釈然としない。そこで筆者は(5)を執筆するにあたり

グアンロンは1日にどれくらいの食料を必要としたのか?」

ここから探ってみた。その手法の一つが下の図表だ。

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各種獣脚類が必要とした餌の量を、体重・体高・移動能力etcから導いたもの。

(仮想種)の欄は属名が指定されていなかったため、筆者が体重から当てはめた

③Adam Kane, Kevin Healy (2016)

これは2016年にアダム・ケイン(Adam Kane),とケビン・ヒーリー(Kevin Healy)が出した

「Body Size as a Driver of Scavenging in Theropod Dinosaurs」

 という論文に載っていた。本研究では、どのような獣脚類がスカベンジャー*3だったかを推測していた。その一環に、獣脚類が1日に使用するエネルギーを算出したのだ。算出材料には「体重」・「体高」・「移動能力」の3つが使われている。

プロットの段階では2016年の論文一つで進めていたのだが、資料を読み直していたら「肉食恐竜事典」P333にも異なる手法が載っていたため、もう一つ…

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「肉食恐竜事典」内の計算式と、それにグアンロンのデータを当てはめた結果

「肉食恐竜事典」グレゴリー・ポール(著)1993年より

 総合的に考えるとグアンロンは一日に3kgの肉塊が必要だった。

(;´・ω・)「4000kcalだとか、3kgの肉塊だとか聞いても実感が湧かないよ……」

って読者は必ずいるはずだ。そこでカツ丼の出番!! カツ丼(並)は一杯で950kcalだそうだ。"痩せの大食い"だとか言って笑えないレベルであるw

そしてグアンロンの身体に装填された武装は、課せられたノルマをこなすに十分だった。てなわけで、次はグアンロンの身体的特徴を見ていこう。

四肢

2016年に(Changyu Yun)が初期ティラノサウルス類を総括した論文*4をだした。以下は、そこのグアンロンの項の引用である。

As this taxon had long forelimbs with a large manus
and a small skull with small teeth, it is likely that its fore limbs played an important role in hunting unlike the more
derived tyrannosauroids, as their forelimbs are very short ened.

翻訳・要約してみよう

「この種(グアンロン)は、長い前肢と大きな手足、そして小さな歯の生えた小ぶりな頭骨を持っていたため、より派生したティラノサウルス科とは異なり、前肢が狩猟において重要な役割を果たしていたと考えられている。」

現在のティラノサウルス研究の第一人者、スティーブ・ブルサッテが自著*5でも述べたように、まさにグアンロンの前肢は”必殺の武器”だった。単体では伝えづらいので、新旧の獣脚類と併せて確認しよう。

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獣脚類の前肢の比較。グアンロンとデイノニクスの手はよく似ている

ディロフォサウルスが初期型、ディノニクスが次世代型である。

⑤Xu Xing, James Clark (2009)

 グアンロンの前肢(manus)は長い。自分の頭骨長(35cm)にほぼ等しい。鉤爪(末節骨)も大きく、鋭く、強く湾曲していた。断面こそ切断には適していない*6が、しかし逃げようと藻掻く獲物を鉤爪で突き刺して捕え、あとはガブリッ!! →相手は死ぬ!!

さらに手首も柔軟だった。手根骨*7は丸みを帯びた半・半月状。これなら可動性が大きく、掴んだ獲物が暴れても手首を痛めることはない。その点、子孫筋のティラノサウルス科は手根骨が平たい皿状だ。つまり進化の過程で明確に前肢を使わなくなっている

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グアンロンの成体と亜成体の頭骨の比較。

成長の過程で鼻面の鶏冠が大きく張り出す

①Xu Xing, James Clark (2006)

頭骨だって負けてはいない。しかも後のティラノサウルスと瓜二つの特徴があった。

まず「これさえ見つかればティラノサウルス類確定!」な特徴は二つある。

  • 腸骨*8の側面に溝があること
  • 前歯*9の断面がDの形をしていること

今回の肝は後者。D字型の前歯は、食事中に骨から肉を上手いこと引き剝がし、攻撃時には相手から大きな肉の塊を食い千切った。その他の獣脚類(ケラトサウルスやアロサウルス)が小刻みに肉を切り刻んだのとは対照的である。後続の歯列は一般的な獣脚類にあるのと同じで、中でもドロマエオサウルス類のそれに近い。そこで筆者はドロマエオサウルス類の摂食方法を。具体的には歯と顎の使い方を調べた。

 

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獲物を食い千切ろうとするサウロルニトレステス(上は歯のみ、下は頭全体)

グアンロンも同様の方法で肉を嚙み切った可能性が高い

⑥AngelicaTorices, Ryan Wilkinson (2018)

 そうして行き着いたのが、2018年にアンジェリカ(Angelica Torices)とライアン・ウィルキンソン (Ryan Wilkinson)が出したこれだった。

「Puncture-and-Pull Biomechanics in the Teeth of Predatory Coelurosaurian Dinosaurs」

ここでは白亜紀後期の北米に生きた肉食性コエルロサウルス類が研究対象である。

記載論文*10でも何度か触れられていたのだが、グアンロンの頭部にはどこかドロマエオサウルス類を思わせる特徴が多い。歯列の高さに波がなく、鼻面は頑丈で、ナイフ状の歯は細かなセレーション付き。おそらく小型コエルロサウルス類が肉食へ進化すると、こうした適応が起こりやすいのだろう。ある種の収斂進化と言えるかもしれない。

 

…かくしてグアンロンはジュラ紀ジュンガル盆地に名乗りを上げた。周囲の獲物たちにとって、あのトレードマークたる鶏冠は”死の象徴”に見えたに違いない。

 ただ、勘違いしてはいけない。

当時のティラノサウルス上科は決して頂点捕食者ではなかった!!

爪と歯は鋭く、足も速かったものの、如何せん体格がヒョロいw  ジュラ紀の王者”カルノサウルス類”*11や各種大型植物食恐竜に挑んだとしても、文字通り一蹴されてしまったに違いない。

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無謀にも大型恐竜へ特攻をかけるグアンロン。素直に言って勝ち目はない

「完全解剖ティラノサウルス 最強恐竜進化の謎」より ©NHK

ドロマエオサウルス類のシックルクロー(sickle claw)にあたる秘密兵器もなく、その鉤爪が掻っ攫えたのは、どう贔屓目に見ても自分と同程度の相手までだった。先に使用した2016年の論文でも「初期のティラノサウルス類は小動物を主食にしていた」とバッチリ書いてある。*12
しかし嘆く必要はない。全くない。むしろ喜ぶべきだ。

覚えているだろうか? (3)にて筆者は記事一本丸々を犠牲者名簿へ割いた。あそこにはネズミ大の哺乳類から、やや大きなワニ類。果ては1メートルを超えるリムサウルスまで、実に豊富な小動物が記録されていた。その彼らがいるではないか!! 改めてリストアップしてみよう。しかも今回は、墓場以外から発見された者も込みで。

石樹溝層(Shishugou Formation)の小動物一覧

  • 小型獣脚類(全長1~3.5m)…最低でも7~8種を確認
  • 小型鳥盤類(全長1~2m)…最低でも2種を確認
  • 翼竜(全長1m?)…最低でも2種を確認
  • ワニ類(全長30cm~1m)…最低でも3種を確認
  • カメ類(全長1~3.5m)……1種を発見済
  • 非哺乳類型・獣弓類…ユアンノテリウム(全長50cm~1m)
  • 哺乳類(全長・不明)…おそらく2~3種が発見か?

不確実だから挙げはしなかったが、ここへ大型恐竜の卵と幼体が加わる。ダメ押しに周りの水辺からは両生類やサカナが確実に獲れたはずだ。しつこいようだが小動物は化石に残りにくい。つまるところ、グアンロンは餌に不自由しなかっただろう

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ドキュメンタリー本編で登場したユアンノテリウム

作中では”哺乳類に似た小型の爬虫類”として紹介され、グアンロンの獲物候補だった

©ナショナルジオグラフィック

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大好物のインロンをねじ伏せたグアンロン

両者の系譜のライバル関係は、およそ9000万年も続いた

「発見! 恐竜の墓場」より ©ナショナルジオグラフィック

 では冒頭に推測されたノルマを思い出してみよう。すると次のような予測が立つ。

  • 貴方がグアンロンだったとして、マメな性格なら1日に1回ユアンノテリウム*13を丸のみしたら良かった
  • 一方、多少ものぐさな性格なら、3~4日に1回インロン*14を仕留めれば良かった
  • あるいは、これら2つの間を取り、2日に1回リムサウルスの幼体*15を狙うのも良かろう。

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小型角竜を貪り食うグアンロン

仮にインロン一匹を丸ごと仕留めれば、数日は餌に事欠かなかった

復元画を描いてくださったのは@Harutrex氏

 

(-Д-)あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”(!?)

ツカレタ……ヒッシャハ、ツカレモウシタ。

うん、これを書いている時刻を教えて差し上げようか? なんと深夜1時だ……筆のノるとき、ノらぬとき、こうムラっけがあると作成時間が伸びてしょうがない。申し訳ないが洒落の効く〆ができそうにもないので、今回(5)はここまでとしよう。

次回(6)は未定だ。グアンロンやリムサウルス以外の共産生物を紹介するかもしれないし、そうではないかもしれない。もう意識混濁、ボーーーっとしてきたので、おしまい!!じゃあの~

 

「発見! 恐竜の墓場(6)」へ続く。

 

 

【参考文献】 

 

【論文】

「A basal tyrannosauroid dinosaur from the Late Jurassic of China」Xu Xing, James Clark (2006)…グアンロンの記載論文

「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文

「Body Size as a Driver of Scavenging in Theropod Dinosaurs」Adam Kane, Kevin Healy (2016)…体のサイズから推測する獣脚類の食生活

「News and Reviews – A review of the basal tyrannosauroids (Saurischia: Theropoda) of the Jurassic Period」Changyu Yun(2016)…ジュラ紀の基盤的なティラノサウルス上科まとめ

「A Jurassic ceratosaur from China helps
clarify avian digital homologies」Xu Xing, James Clark (2009)…リムサウルスの記載論文

⑥「Puncture-and-Pull Biomechanics in the Teeth of Predatory Coelurosaurian Dinosaurs」Angelica Torices, Ryan Wilkinson(2018)…白亜紀後期のコエルロサウルス類の摂食スタイル

 

【Web】

・「A Jurassic tyrant is crowned」Thomas R. Holtz Jr (2006)…グアンロンの解説記事

・「Uncovering the Mysteries of China’s Dinosaur Death Pits」(ROYAL TYRRELL MUSEUM OF PALAEONTOLOGY,2021)…ロイヤル・ティレル博物館の”恐竜の墓場”の解説ページ

「巨大恐竜の足跡が“死の落とし穴”に?」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:獣脚竜グアンロン」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:草食獣脚竜リムサウルス」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・特集」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・フォトギャラリー」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

・「Upper Shishugou crocodyliform」(英語版Wikipedia,2020)…リムサウルスのホロタイプの脇に横たわっていた詳細不明のワニ類

 

【書籍】

・「肉食恐竜事典」グレゴリー・ポール(著) 2010

・「ホルツ博士の最新恐竜事典」トーマス・ホルツ(著) 2010年

・「恐竜の教科書」ダレン・ナイシュ(著) 2019年

・「恐竜の世界史」スティーブ・ブルサッテ(著) 2019年

・「恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅」デヴィッド・ワイシャンペル(著) 2015年

・「愛しのブロントサウルス」ブライアン・スウィーテク(著) 2015年

・「恐竜探偵 足跡を追う」アンソニー・J・マーティン(著) 2017年

 

【注釈】

 

*1:尾椎の先が不完全のため、推定値がバラつく

*2:場合によっては”強肉食”ないし”超肉食”とも言われる

*3:死体を主な糧とする生物。現生ではシデムシ・ハゲワシ・シマハイエナetcが代表だ

*4:「News and Reviews – A review of the basal tyrannosauroids (Saurischia: Theropoda) of the Jurassic Period」

*5:「恐竜の教世界史」P158

*6:一部の獣脚類は切断用のシックルクローsickle clawを備えていた

*7:下腕と手指を繋ぐ骨

*8:ilium

*9:前上顎骨歯・premaxilla-teeth

*10:①Xu Xing, James Clark (2006)

*11:かつて大型の肉食恐竜をごった煮にしていた分類群。現在では統括範囲が縮小されているが、使い勝手が良いので””付きで使用した

*12:④Changyu Yun(2016)より。本文では【Coeluridae-Comment】P160に記述されていた

*13:推定体重5kg

*14:推定体重12kg

*15:推定体重7kg

発見! 恐竜の墓場(4)

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発見! 恐竜の墓場 ~泥まみれの走り屋

 

 スッタッタッタッタ、ズザッ!! ガサガサ……スッ。…ザッザッザッザ……

走って、跳ねて!! エサを探して……首をもたげる。…そして走り去る……

常にせわしなく、安定とは程遠い生物。それが今回(4)の主役。

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リムサウルスの復元画。羽毛が生えていたかは定かでない

©ナショナルジオグラフィック

 リムサウルス(Limusaurus inextricabilis)!!

 ドンドンパフパフ!ピーヒャラパー!!(オーケストラを脳内再生)

 

さて。気を取り直して、(4)を初めていきたい。今回は前回予告したように、リムサウルスに降りかかった”ドジっ子説”を払拭していこう。ただし判決は各々に任せる。これを読んで、まだドジっ子だと思ったら、それはそれで構わないw

では、まず先に筆者がリムサウルスを一言で表しておく。

「リムサウルスは元祖”ダチョウ恐竜”だ!!」

ja.wikipedia.org

(”ダチョウ恐竜”ことオルニトミモサウルス類OrnithomimosauriaのWikipedia


”ダチョウ恐竜”とは、ジュラシック・シリーズ常連のガリミムスに、各種メディアに引っ張りだこのオルニトミムスなど、現生の走鳥類*1に似た俊足の獣脚類を総称した名前だ。もっぱら雑食~植物食で、顎に鋭い歯はなかった。全身が羽毛に覆われ、そこから突き出た脚はスラリと長い。  当然ながら走る速さはかなりのもので、時速60キロメートルを超えたとする話もある*2

 そんな”恐竜界のウサイン・ボルトといえるダチョウ恐竜だが、よく思い出してほしい。先ほど筆者はリムサウルスを”「元祖」ダチョウ恐竜”と呼んだ。つまり……

  • 最古級のオルニトミモサウルス類(ペレカニミムス) → 白亜紀前期
  • リムサウルス → ジュラ紀中期~後期

 この通りリムサウルスのほうが登場年代が早い。というかダチョウなんて新生代からの新参ペーペーなんだから、全員まとめて”リムサウルス型恐竜”にしちまえ(THE暴論)

…気を取り直して。一応このシリーズは「今見直す、恐竜ドキュメンタリー」と題しているので、作中のリムサウルスについても触れていこう。

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ドキュメンタリー本編で登場したリムサウルス

作中では”ラプトル類”として紹介された

©ナショナルジオグラフィック

とはいえ作中「リムサウルス」と呼ばれることはない。なぜなら本種の命名・記載は2009年。制作当時はまだ無名だったのだから。 しかし、それを差し引てもあまり出来の良いCGではない。リムサウルスの特徴的なクチバシこそあれ、前腕は長すぎるし体型全体もマッシブ過ぎる。しかも作中「ラプトル類」と呼称されていたが、これも誤りである。おおかた「小型の獣脚類」をそう言い換えたのだろう。だが両者の分類は全く違う。

 こうまで間違い続きだと萎えてきた……ヨッシ! 本題へ戻ろう!!

 

リムサウルスのい・ろ・は

学名)リムサウルス(Limusaurus inextricabilis)

全長)約1.5~2メートル?*3

分類)獣脚亜目Theropoda>ケラトサウルス類Ceratosauria*4

食性)幼年期は雑食成体は植物食*5

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食事中のリムサウルスたち

成体は植物を、幼体は小動物(トカゲ)を食べている

©SCI-NEWS

(1)で解説をすっ飛ばした分、今回はきっちり解説していこうか(・∀・)

分類)

石樹溝層(Shishugou Formation)で発見された小型獣脚類の多くと異なり*6、リムサウルスはもっと原始的・基盤的なケラトサウルスの仲間だ。かつてケラトサウルス類はカルノタウルスなどのゴツゴツした捕食者のみ在籍していた。しかし新種の発見とデルタドロメウスの再研究などを経て、現在ではコエルロサウルス類にさえ匹敵しえる、圧倒的な多様化に成功したグループだったことが明らかにされている。そのあたりも別の機会に記事立てしよう……

 分類はそこまで!! ただ一つ覚えておいてほしいのは、石樹溝層から発見された

小型獣脚類でケラトサウルス類に属すのは本種のみという点だ。

食性)

 あっさり「雑食→植物食」と書いたが、これは凄いことだ。現生動物はもちろん絶滅動物まで含めても、こうまで食性をガラリと変える動物は数えるほどしかいない。食性の魔改造を可能としたのが、成長期のリムサウルスの身体に起こる変化。カギとなるのは頭部と腹部だ。

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リムサウルスの幼体と亜成体の比較

主に口先と腹部が変化している

②Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)

 しかし、そもそも絶滅した生物の食性の変化など、どうして分かったのか? 誰かが過去へ飛んで食卓を覗いたのか。いーや思い出してほしい。リムサウルスは”恐竜の墓場”(Dino death trap)から豊富に産出した。当の本人たちは無念でも、後世の私たちには宝の山だ。(1)でも触れたように小型恐竜の骨は消失しやすく、まとまった個体数を収集するなど夢のまた夢。だからこそ19頭*7もの情報源は貴重なのだが、これが奇跡を起こした。百聞一見、また論文を見てもらおう。

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リムサウルスの顎の変化

歯が消失し、下顎の先が下方へ湾曲するようになる

②Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)

「Extreme Ontogenetic Changes in a CeratosaurianTheropo」(Shuo Wang, Josef Stiegler)

2017年に出たこの論文は、豊富な標本を元にリムサウルスの成長過程を研究した。この図を作るのに滅茶苦茶疲れた (2時間の力作) ので、隅々まで味わってほしい。が、素直に要旨を順に箇条書きしよう。

  1. 幼体(推定年齢1歳)には鋭い歯が生えている
  2. 亜成体(推定年齢2~6歳未満)になると上顎骨(maxilla)の歯が退化する*8
  3. 成体(推定年齢6歳以上)最終的には全ての歯が無くなる

傍から見ると老衰で歯が抜けたように見える。ではリムサウルスの大人は、シダの葉をムギュムギュしゃぶっていた……訳はあるまい!! 

歯の代わりに口先にはクチバシが発達したのだ。角質のクチバシは一生伸び続けるため、硬い植物を食べるには好都合である。現在でも同様に伸び続ける歯*9を持つ齧歯類(ネズミやモルモットetc)は、硬いイネ科植物を餌として繁栄していることが、その証明と言えよう。

 

 腹部の変化*10も確認しなければ。

幼体(juvenail)と亜成体(subadult)の全身比較図でも示したが、まず恥骨の先がブーツ状に拡大する。この突起は休息時に”座椅子”の役を果たしたとも考えられるが、もっと重要なのが内臓の拡大。前提として…

植物食動物は肉食動物よりも腸*11が長い

 硬く消化しにくい植物細胞から栄養を引き出すには、相対的に長い時間をかけて消化・吸収を行う必要があった。それでも往々にして装備は不十分で、ある者はワイン樽の如き腹を獲得し、ある者はムキムキの顎でエサを念入りに噛み砕いた。バクテリアに協力を仰いだ者もいる。ではリムサウルスは……如何に???

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リムサウルスの腹部から発見された胃石

①Xu Xing, James Clark (2009)

 選ばれたのは、胃石(gastroliths)でした

( ^^) _旦アヤタカーのノリでwww

 ……ごめんなさい。反省してます。

にしても胃石(ガストロリス)は最適だった。肥大化した顎も胴体も、ともに走行時には邪魔だ。体の先端に顎のような重量物があっては、素早く方向転換ができない*12。デブった腹は後ろ足の可動域を大きく妨げる。こんな調子では命がいくつあっても足りなかっただろう。

身体が小さく、目立った武器も鎧もないリムサウルスにとって、逃げ足の速さは生命線。

植物を食べる以上、一定量は消化管が肥大化してしまう。これ以上ランニングに支障をきたす事はできないし、したら絶滅まっしぐら…。

それに引き換え胃石は身体の中央に位置するため、急カーブを走っても安定する。別に重量全体では変わらずとも、同じ性能の顎を進化させるより合理的だ。緊急時にはエサ諸共全部をゲロってしまうのもアリw  こうすれば究極完全体で逃げられる。 腸の長さもある程度は削減できた。胃袋*13の中で揉みくちゃにされた植物はドロッドロの粥となる。証拠こそないが同時にバクテリアの援軍も参戦したかもしれない。かくして消化を進めてしまえば、後を受け持つ腸の負担は減った。本来なら更に長い腸も、これで気持ちばかり短くできる。

※…っとここまでは良かったのだが、近年になって肉食の獣脚類*14からも胃石が報告・再認識されだしている。なので「胃石を持つ=植物食」という古典的な考え方は修正を強いられている……この事実も書かねば、読者に笑われよう(;^ω^)

 

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石樹溝層産の恐竜の同位体を解析した結果

彼らの食性(diet・fooding・prey)を示している

②Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)

このように、リムサウルスは様々な面から見て異質・特異的だった。その特徴は多くの捕食性小型獣脚類が駆け回る世界で大きなアドバンテージとなり、彼らを繁栄へと導く……。そもそもリムサウルスとて最初から植物食を望んでいたわけがあるまい。栄養価・消化のしやすさ、どちらも肉のほうが優れている。元来獣脚類の系譜が肉食だったことを鑑みても、小型 × 2足歩行 × 肉食(小動物ハンター)は鉄板の組み合わせだった。そこから最重要の食性を180度逆転させることが、どれだけ大変だったことか。*15

でも苦労に見合う報酬はあった。

天敵たるグアンロンの実に10倍の個体数が存在していたのだから。*16

 

 だからリムサウルスは単なるドジっ子ではない。スゲー(敬意)ドジっ子だったのだ!!

 ということで(いつものw)(4)ことリムサウルス特集はここまd(………ん?  何か忘れているような。そうだそうだ、当時のジュンガル盆地の多様な小型獣脚類が食べ分け・棲み分けを行っていた」、という論文を提示しなければ。そうと決まればホイッとな!

「A juvenile specimen of a new coelurosaur (Dinosauria: Theropoda) from the Middle–Late Jurassic Shishugou Formation of Xinjiang, People’s Republic of China」

ジョナン・チョニエル(Jonah N. Choiniere),とジェームズ・クラーク(James M. Clark)らが2013年に書いた論文だ。ジュンガル盆地から新しく報告された小型獣脚類アオルン(Aorun)の説明をした折、P28【Discussion】*17の項目にそれを書いている。なるほど分かった合点承知の助。

しかし新たな疑問も生まれた

「なぜ恵まれた環境*18にもかかわらず、リムサウルスは植物食に進化したのか?」

結果的に活路を見いだせたが良かったものを、おのれ誰が肉食のニッチを抱えてたんじゃァァァァァ(#゜ω゜)ツラミセイ…

以下、先の論文の【Discussion】の項目を一部引用する。

…herbivorous) ceratosaur Limusaurus (Xu et al.
2009a) to the hypercarnivorous basal tyrannosauroid Guanlong (Xu et al. 2006).

翻訳してみたのがコレ↓。

「おそらく植物食)のリムサウルスから、強肉食性*19のグアンロン

そうだ。標本番号TBB2002・”恐竜の墓場”でリムサウルスたちの上にふんぞり返っていた、あの”ランポスモドキ”である…

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木陰から飛び出したグアンロン。果たして何者なのか…

©ナショナルジオグラフィック (本編映像より)

次回(5)は、筆者が世界一好きな恐竜を解説したい。

それでは御機嫌よう。

 

【発見! 恐竜の墓場 (5)】へ続く!

 

 

【参考文献】

 

【論文】

 

「A Jurassic ceratosaur from China helps
clarify avian digital homologies」Xu Xing, James Clark (2009)…リムサウルスの記載論文

②「Extreme Ontogenetic Changes in a CeratosaurianTheropo」Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)…リムサウルスの成長(と食性)

「Foregut Fermentation in the Hoatzin, a Neotropical Leaf-Eating Bird」Alejandro Grajal,STUART D. STRAHL(1989)…ツメバケイ(現生の植物食性鳥類)の消化システム

「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文

「A juvenile specimen of a new coelurosaur (Dinosauria: Theropoda) from the
Middle–Late Jurassic Shishugou Formation of Xinjiang, People’s Republic
of China」Jonah N. Choiniere, James M. Clark(2013)…アオルンAorunの記載論文

 

【Web】

・「Limusaurus: Beaked, Bird-Like Dinosaur Species Had Teeth as Juveniles, Lost Them as They Grew」(SCI-NEWS,2021)…リムサウルスがクチバシを獲得するまで

・「Uncovering the Mysteries of China’s Dinosaur Death Pits」(ROYAL TYRRELL MUSEUM OF PALAEONTOLOGY,2021)…ロイヤル・ティレル博物館の”恐竜の墓場”の解説ページ

「巨大恐竜の足跡が“死の落とし穴”に?」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:獣脚竜グアンロン」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:草食獣脚竜リムサウルス」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・特集」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・フォトギャラリー」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

・「Upper Shishugou crocodyliform」(英語版Wikipedia,2020)…リムサウルスのホロタイプの脇に横たわっていた詳細不明のワニ類

 

 

【書籍】

・「肉食恐竜事典」グレゴリー・ポール(著) 2010

・「ホルツ博士の最新恐竜事典」トーマス・ホルツ(著) 2010年

・「恐竜の教科書」ダレン・ナイシュ(著) 2019年

・「恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅」デヴィッド・ワイシャンペル(著) 2015年

・「愛しのブロントサウルス」ブライアン・スウィーテク(著) 2015年

・「恐竜探偵 足跡を追う」アンソニー・J・マーティン(著) 2017年

 

【注釈】

*1:地上性のダチョウやエミューetc

*2:しかし、こうした話はハッキリせず危ういものなので、またの機会に【恐竜運動会】とでも題して記事にするw

*3:完全に成熟した個体は未発見のため推定値しかない

*4:正確にはエラフロサウルスに近縁

*5:背丈の低いシダ類etcを好んでいただろう

*6:それら5~6種は全てコエルロサウルス類

*7:②Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)のアブストラクトより

*8:論文中では、成長段階をより細かく分けて説明している。 成長の第1期に42本の歯をもち、第2期では36本。第4&5期では歯を喪失するという

*9:無根歯

*10:一部は怪しいが

*11:小腸・大腸を問わず、胃袋も大きい

*12:実感が湧かなければ、2Lペットボトルを持ったまま走ってほしい。色々ポーズを変えて走ると良い

*13:いわゆる砂嚢・砂肝

*14:ロウリンハノサウルスやポエキロプレウロンPoekilopleuron。それと非公式ながらタルボサウルスから。この辺は「恐竜探偵 足跡を追う」が詳しい

*15:急成長したい幼体が肉食・雑食なのも、ある種当然だ

*16:リムサウルスの発見数は19頭、引き換えグアンロンは僅か2頭。化石化のバイアスや生態ピラミッドを考えると鵜呑みにはできないが、まぁ一つの指標として

*17:訳せば【議論】

*18:(2)での解説を参照されたし

*19:あるいは超肉

発見! 恐竜の墓場(3)

【発見! 恐竜の墓場】~犠牲者名簿

 

 お待たせしました (^^)ノ

いよいよ今回から”恐竜の墓場”の謎へ迫っていきましょう!! もう前提知識がどーとか言いませんから、安心して恐竜沼にドップリ浸ってください。

手始めに(3)は、恐竜の墓場(Dino Death Traps)のより詳しい情報から書いていこう。例えば具体的な犠牲者の数・種類、そして堆積されたときの状況など。まぁ、一般書籍には書かれない㊙情報をバシバシ書いていく

それでは標本番号ごとに行ってみよーーーー!!

 

犠牲者名簿

【標本番号 TBB2002】

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TBB2002に積み重なった小型獣脚類たち

中でもグアンロンの亜成体は見事な保存状態だ

①David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)を改変

  1. グアンロン(成体・全長3m)…標本番号IVPP V14531
  2. グアンロン(亜成体・全長1.5m)…標本番号IVPP V14532
  3. 所属不明の獣脚類(???・全長1~2m?)…標本番号IVPP V15302
  4. リムサウルス(幼体・全長70センチ)…標本番号IVPP V15303
  5. リムサウルス(幼体・全長1m)…標本番号IVPP V15304

※TBB2002のみ堆積順が明確に図示されたため、番号を付けた。上から①②③…と堆積している。

 

【標本番号 TBB2001】

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TBB2001に囚われていたリムサウルスたち。主に下半身が保存されていた

①David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)を改変

  • リムサウルス (5頭)

 ※TBB2001ではリムサウルスのみが堆積している。

 

【標本番号 TBB2005】

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TBB2005に囚われていた犠牲者たち。リムサウルス(大)の首元には小型のワニ類が食いついている

 wikimedia commons File:Limusaurus slab colour coded.jpg を改変

  • リムサウルス(少なくとも9頭*1) …ホロタイプ標本(IVPP V 15923)を含む
  • 所属不明の小型鳥盤類small ornithischian(1頭)
  • 小型のワニ形上目・Crocodylomorpha*2(2匹)
  • カメ類・turtle (1匹)
  • 小型哺乳類・small mammals(2匹)
  • トリティロドン類・tritylodonts*3(3匹)

以上、犠牲者名簿であった。

これらの情報は”恐竜の墓場”の論文*4のP117・【VERTEBRATE PRESERVATION】*5の項目に書いてある。この図を作るにあたり、骨の名称などを調べて翻訳し、それらをフォトショで統合・加工するのは物凄ーーーく骨が折れた(汗)。だもんで、是非ともジックリ読み込んでほしい……ヒッシャノドリョクガムダニナラヌヨウ

 

…おまえ(読者)の次のセリフは「リムサウルス多すぎィィィィィ」という!!

 (読者)「「「リムサウルス多すぎィィィィィ」」」

 ハッ!……( ゚Д゚) ゚Д゚) ゚Д゚)←読者

 さらにオメー(読者)は「こいつなぜ俺・私のセリフがわかるんだ?」…という。

ハッ!!……マサカ…(; ・`д・´); ・`д・´); ・`д・´)←読者

 

違う違うw 千年アイテムなんて持ってないから。

ただ単に、筆者も初めて”恐竜の墓場”の論文① を読んだとき、全く同じ感想だったからだ。普通なら先に嵌った個体を残りが観察・警戒するため、あとの犠牲者は減るはずだが。いやーどうにも理解不能だ。「リムサウルス=ドジっ子 説!!」を唱えられるレベルにやらかしている。

しかし現実に「ドジっ子説」などあるはずもなく、実際にはやむにやまれぬ……何か想像しがたい理由があったのだろう。それを解き明かすには、ちょっと情報不足だしココは手狭だ。…ということで、今回(3)は以上としたい。

次回(4)はリムサウルス特集!!

この尻尾の生えたニワトリのようなドジっ子は、どのような恐竜だったのか。新しい資料と照らし合わせながら探っていく。乞うご期待(^∀^)/

 

「発見! 恐竜の墓場(4)」へ続く。

 

 

【参考文献】

 

【論文】

「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文

「A basal tyrannosauroid dinosaur from the Late Jurassic of China」Xu Xing, James Clark (2006)…グアンロンの記載論文

「A Jurassic ceratosaur from China helps
clarify avian digital homologies」Xu Xing, James Clark (2006)…リムサウルスの記載論文

④「Extreme Ontogenetic Changes in a CeratosaurianTheropo」Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)…リムサウルスの成長

「Overview of Mesozoic crocodylomorphs from the Junggar Basin, Xinjiang, Northwest China, and description of isolated crocodyliform teeth from the Late Jurassic Liuhuanggou locality」Oliver Wings, Daniela Schwarz-Wings (2010)…ジュンガル盆地のワニの概要と歯の説明

 

【Web】

 ・「Uncovering the Mysteries of China’s Dinosaur Death Pits」(ROYAL TYRRELL MUSEUM OF PALAEONTOLOGY,2021)…ロイヤル・ティレル博物館の”恐竜の墓場”の解説ページ

「巨大恐竜の足跡が“死の落とし穴”に?」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:獣脚竜グアンロン」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:草食獣脚竜リムサウルス」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・特集」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・フォトギャラリー」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

 

【書籍】

・「ホルツ博士の最新恐竜事典」トーマス・ホルツ(著) 2010年
・「恐竜の教科書」ダレン・ナイシュ(著) 2019年
・「恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅」デヴィッド・ワイシャンペル(著) 2015年
・「愛しのブロントサウルス」ブライアン・スウィーテク(著) 2015年
・「恐竜探偵 足跡を追う」アンソニー・J・マーティン(著) 2017年

 

【注釈】

*1:あるいは12頭

*2:⑤Oliver Wings, Daniela Schwarz-Wings (2010)  を読むにゴニオフォリス類goniopholididの一種だろう

*3:哺乳類にごく近縁なキノドン類

*4:① David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)

*5:訳すと【脊椎動物の保存】

発見! 恐竜の墓場(2)

【発見! 恐竜の墓場】~周囲の環境

 

 番外編の資料集を挿み、やってきました(2)へ。

ここ(3)では、グアンロンやリムサウルスを取り巻いていた自然環境。つまり…

石樹溝層(Shishugou Formation)古環境(Paleoenvironment)

をジックリ見ていくとしよう。

(# ゚Д゚)「んな小難しい話はどーでもいいから、恐竜の墓場の真相解明はよ!!」

という読者もおられるだろうが、まぁまぁ焦らないで……まずは外堀から埋めたほうが分かりやすい、なんて事もある。暫しお付き合い願いたい。

 

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石樹溝層の位置。 wikimedia commons File:Wucaiwan locality.jpg を改変

石樹溝層のい・ろ・は

 まずは「石樹溝層とはなんぞや…?」 この疑問から答えていこう。

en.wikipedia.org

(グアンロンやリムサウルスの産出した石樹溝層(Shishugou Formation)のWikipedia

英語版Wikipediaに都合よくまとめられていたので、これを翻訳・要約したい。

  • 今から1億6500万年前から1億5500万年前ジュラ紀*1・中国北西部は現在のウイグル自治区、そこのジュンガル盆地に堆積
  • 主に赤みの強い泥岩(Mudstone)から形成され、さらに凝灰岩(Tuff)や砂岩(sandstone)、礫岩(conglomerate)も含まれる。
  • 堆積層の厚みは約380メートルあり、地層の下部30メートルを構成するのは礫岩。そこから上を泥岩などが占める。

 とりわけ重要なのは、かつてのジュンガル盆地にはジュラ紀中期~後期にかけて大規模な水辺*2と活火山の存在が示されることだ。これは後々墓場の謎を解くヒントになるため、よく覚えておいてほしい。

 

それでは前提知識は行き渡ったとし、いよいよ石樹溝層の古気候・古環境を見てみよう

【石樹溝層の古気候*3

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森林と湿原の混成環境。当時のジュンガル盆地もこのような風景だったかもしれない Wikimedia Commons File:Heiligengeistsattel wetland.jpg

 

ケッペンの気候区分に照らし合わせれば、おそらくサバナ気候ないし地中海性気候に当たると思われる。 なぜなら骨化石や植物化石(Agathoxylon)の研究がそれを示しているからだ。まず骨化石の研究から見てみよう。

Dinosaur taphonomy of the Jurassic Shishugou Formation (Northern Junggar Basin, NW China) – insights from bioerosional trace fossils on bone 

フェリック・アウグスティン(Felix J. Augustin)とアンドリュース・マズケン(Andreas T. Matzke) が2021年に出した論文によれば、石樹溝層から発見された恐竜の骨に穿たれた昆虫(カツオブシムシ)の摂食跡を元に次のような報告をしている。

「死骸を昆虫が分解していたという事は、つまり骨が土砂に埋まる前に数週間は野ざらしにされていたことを示している。また、こうした痕跡は周囲が乾燥しているほど作られやすい

つまり乾燥した気候が数週間は続いていたことがわかる

 

では乾燥帯だったのかと聞かれたら、それは違う。

なぜなら石樹溝層からは35種類以上の動物が報告されている。中には水辺から離れられないカメ類のシンジャンケリス(Xinjiangchelys)や莫大な植物資源を必要とする大型恐竜*4も含まれる。これらは一定の水資源がなければ存在できない

しかも発見される植物化石にも水気の多い土地を好むシダ類*5とトクサ類*6が多い。現代でもシダは木陰・物陰のジメジメした場所に、トクサは田んぼの脇などに見られることから、読者も実感できるだろう。

 そこで!!引っ張り出すのが(Xu-DongGou)と (Hai-BoWei)*7が2021年に書いた次の論文。

Leaf phenology, paleoclimatic and paleoenvironmental insights derived from an Agathoxylon stem from the Middle Jurassic of Xinjiang, Northwest China

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ナンヨウスギ科の)アラウカリア・ミラビリスの化石。この標本は南米から発見されたが、よく似た種類が繁茂していた FPDMデータベースより

この論文は同地から掘り出されたナンヨウスギ科の生理学的な特徴に、当時の気候と環境を見出している。詳しい話は省くが、ともかく(やや乾燥した)熱帯雨林に生える植物……それがナンヨウスギ改めアラウカリアの仲間*8なのだ

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現生のナンヨウスギ改めアラウカリア。現代では南半球に生育する Wikimedia Commons File:Araucaria araucana Lanin.jpg

まぁ、反則気味だが最初っから「石樹溝層は主に泥岩から形成される」とも書いたように、周辺には大きな水源があったのは間違いない。どのような環境だったにせよ当時のジュンガル盆地は……

カラカラとした日が続く乾季と

ジトジトとした日が続く雨季

の二つが組み合わさった世界だったのだ。そしてこうした環境は、先に述べたようにケッペンの気候区分ではサバナ気候ないし地中海性気候に当たる。夏と冬どちらに降水(おそらくモンスーンによる激しい雨)があったのかは定かでない。だからこれ以上は掘り下げにくいので、次へ話を進めよう……。

 

【石樹溝層の古環境*9と植生】

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アマゾンの熱帯雨林。ジャングルと淡水の組み合わせの典型例だ Wikimedia Commons File:River in the Amazon rainforest.jpg

 ここまで読んでいただければ、一帯の環境もおおよそイメージしやすい。火山のふもとに広がる大規模な湿原。植生において支配的だったのは高木のアラウカリア下草のシダやトクサ。一年の半分はこれらが繁茂した雨季。もう半年は水辺が縮小し、下草が枯れ、かつての湖底が泥だらけのぬかるみと姿を変える乾季

  • エクイセタ科(Equisetaceae)…下草(トクサ類
  • コニオプテリス(Coniopteris)…下草(シダ
  • エラトクラデス(Elatocladus)…低木(針葉樹
  • アングロプテリス(Anglopteris)…3~15メートルの木生シダ
  • アラウカリアの一種(Agathoxylon)…高木ナンヨウスギ科

 ひとまず植物だけ抜き出してみた。もちろん全ての植物が化石になるわけがないので、実際にはもっともっとドッサリ生えていたに違いない。ただし草本類はジュラ紀に存在しなかったと思われる。こうした正真正銘の”ぺんぺん草”はどんなに早くても白亜紀からの参戦だった。

 まだ書き足りない思いもある……が、危ない危ない。悪い癖だ( ^ω^)……これ以上は冗長になって締まりが悪いので、(2)はここで閉店ガラガラ店じまい。また「発見! 恐竜の墓場(3)」で会おう!!

 

「発見! 恐竜の墓場(3)」へ続く。

 

 

【参考文献】

 

【論文】

「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文

「A basal tyrannosauroid dinosaur from the Late Jurassic of China」Xu Xing, James Clark (2006)…グアンロンの記載論文

「Dinosaur taphonomy of the Jurassic Shishugou Formation (Northern Junggar Basin, NW China) – insights from bioerosional trace fossils on bone」Felix J. Augustin, Andreas T. Matzke (2021) …骨の分解・化石化の過程*10から探る石樹溝層の環境

Leaf phenology, paleoclimatic and paleoenvironmental insights derived from an Agathoxylon stem from the Middle Jurassic of Xinjiang, Northwest China」Xu-DongGou, Hai-BoWei (2021) …絶滅植物(Agathoxylon sp)から探るジュラ紀中期の古気候*11と古環境*12

 

【Web】

 ・「Uncovering the Mysteries of China’s Dinosaur Death Pits」(ROYAL TYRRELL MUSEUM OF PALAEONTOLOGY,2021)…ロイヤル・ティレル博物館の”恐竜の墓場”の解説ページ

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・特集」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

・「福井県立恐竜博物館 標本データベース アラウカリア・ミラビリス

「野生の馬が沼にはまって大量死 米アリゾナの先住民居留地」(CNN,2018)

・「野生の馬が大量死、熱波で水場干上がる オーストラリア」 (CNN,2019)

 

【書籍】

・「ホルツ博士の最新恐竜事典」トーマス・ホルツ(著) 2010年
・「恐竜の教科書」ダレン・ナイシュ(著) 2019年
・「恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅」デヴィッド・ワイシャンペル(著) 2015年
・「愛しのブロントサウルス」ブライアン・スウィーテク(著) 2015年
・「恐竜探偵 足跡を追う」アンソニー・J・マーティン(著) 2017年

 

【注釈】

*1:地質時代ではカロビアン(Callovian)~オックスフォーディアン(Oxfordian)にあたる

*2:しかも流れのゆるい湖・湿原・沼地

*3:学問上はpaleoclimatologyという

*4:竜脚下目マメンチサウルス・剣竜下目ジアンジュノサウルス・獣脚亜目メトリアカントサウルス科etc

*5:コオニプテルス(Coniopteris)・オスムンダ科(Osmunda)etc

*6:エクイセタ科(Equisetaceae)など

*7:どなたかアルファベット表記された華人の人名の読み方を教えてくださいぃぃぃぃぃ

*8:ジュラ紀の中国で言えばAgathoxylon

*9:学問上はPaleoenvironmentという

*10:専門用語はtaphonomy

*11:学問上はpaleoclimatologyという

*12:学問上はPaleoenvironmentという

発見! 恐竜の墓場 ~資料集

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【発見! 恐竜の墓場】~資料集

 

 ゴソゴソ……おっ、あったあったw

(論文とWebの山を引っ掻き回す音)

 

|ω・`)ノ ヤァ、ヒッシャデスー

 gooからの古参勢はご存じだと思うが、筆者は寄り道が3度の飯より大好きだ。んなもんで墓場(2)を書いていた時に、ふと思った……

「ただ受け身で読んでもらうより、読者個人でも資料を読み、それぞれ理解・考察を深めたほうがブログも円滑になるのでは?」

思い立ったが吉日。てなわけで、【発見! 恐竜の墓場】シリーズの参考文献(の中でも主要な物やマイナーな物)をここに列挙していく。だから読者が自由に活用してほしい。

 

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石樹溝層の位置。 wikimedia commons File:Wucaiwan locality.jpg を改変

 

【ドキュメンタリー本編】

ナショナルジオグラフィック公式youtubeより


www.youtube.comDeath Trap Covered | Dino Death Trap | National Geographic UK

 


www.youtube.comDigging Up a Dinosaur Graveyard | National Geographic

 

【論文】

  • 「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文
  • 「A basal tyrannosauroid dinosaur from the Late Jurassic of ChinaXu Xing, James Clark (2006)…グアンロンの記載論文
  • 「A Jurassic ceratosaur from China helps
    clarify avian digital homologies」Xu Xing, James Clark (2006)…リムサウルスの記載論文

    f:id:Guanlong_wucaii_2006:20210810232846j:plain

    リムサウルスの幼体と亜成体の比較。主に口先と腹部が変化している
  • 「Extreme Ontogenetic Changes in a CeratosaurianTheropo」Shuo Wang, Josef Stiegler(2017)…リムサウルスの成長
  • f:id:Guanlong_wucaii_2006:20210810233229j:plain

    泥沼へ迷い込んだシノルニトミムスの群れ。彼らもまた14頭まるごと化石化した 日経サイエンスより
  • 「A new ornithomimid dinosaur with gregarious habits from the Late Cretaceous of China」Yoshitsugu Kobayashi, Jun-Chang Lü (2003)…シノルニトミムスの大量死
  • Leaf phenology, paleoclimatic and paleoenvironmental insights derived from an Agathoxylon stem from the Middle Jurassic of Xinjiang, Northwest China」Xu-DongGou, Hai-BoWei (2021) …絶滅植物(Agathoxylon sp)から探るジュラ紀中期の古気候*1と古環境*2
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    再現された石樹溝層(ジュラ紀ジュンガル盆地)の風景。マメンチサウルスの足元には多種多様な小型恐竜の姿が見える 恐竜2009 砂漠の軌跡より
  • 「Sequence stratigraphy, paleoclimate patterns, and vertebrate fossil preservation in Jurassic–Cretaceous strata of the Junggar Basin, Xinjiang Autonomous Region, People's Republic of China」David A Eberth, Donald B Brinkman(2001)…ジュラ紀から白亜紀におけるジュンガル盆地の地層・古気候・生物
  • Dinosaur taphonomy of the Jurassic Shishugou Formation (Northern Junggar Basin, NW China) – insights from bioerosional trace fossils on boneFelix J. Augustin, Andreas T. Matzke (2021) …骨の分解・化石化の過程*3から探る石樹溝層の環境

 

【Web】

Wikipedia

en.wikipedia.org(グアンロンやリムサウルスの産出した石樹溝層(Shishugou Formation)Wikipedia

博物館
ナショナルジオグラフィック

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ゴビ砂漠で発生した”恐竜の墓場” ©ナショナルジオグラフィック
ニュース

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アリゾナで発生した”馬の墓場” ©CNN

 

 随時追加予定!! 良さげな資料を見つけたら、コメントで教えてもらえると幸いです~

 

 【注釈】

*1:学問上はpaleoclimatologyという

*2:学問上はPaleoenvironmentという

*3:専門用語はtaphonomy

発見! 恐竜の墓場(1)

【発見! 恐竜の墓場】~プロローグ

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”墓場”に嵌った2頭のグアンロン ©ナショナルジオグラフィック

  およそ1億6千万年前……。

今の中国・ウイグル自治区にあたる地域で、惨劇が発生した。

悲鳴が耳を劈き、目ざとい捕食者を引き寄せる。

犠牲者は瞬く間に引き裂かれたが、しかし捕食者も異変に気が付いた。

だが時すでに遅し……また1頭が犠牲となった。

 

 

 これは単なる絵空事ではない。かつて実際に起きた歴史的事実だ。

ようこそ!太古の世界 第Ⅱブログへ!!

ここはgooブログ絶賛連載中の「太古の世界 〜マニアックな古生物を求めて〜」のサブブログです。とはいえ、サブと言ってもやることは変わりません。今まで通り論文・書籍を元に、マニアックな話を書き連ねていきますので、どうぞお付き合いください。

てなわけ今回は、goo本編の看板シリーズ「今見直す、恐竜ドキュメンタリー」・「発見! 恐竜の墓場」の改訂版を再連載していこう。

 

発見! 恐竜の墓場は、2007年にナショナルジオグラフィックが発売したドキュメンタリーだ。本作では2000年にゴビ砂漠石樹溝層(Shishugou Formation)

で行われた調査と、そこで発見された恐竜たちを取り上げた作品だ。なかでも大々的に、文字通りの主題となったのが、「Dino Death Traps」あるいは「Dino Death Pits

 とも呼ばれる恐竜の墓場である。

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掘り出された”恐竜の墓場”。高さは1~2メートル ©ナショナルジオグラフィック

このあたりは徐興(Xu Xing)&ジェームズ・クラーク(James Clark)氏らが2010年にDINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINAと題した論文*1でまとめている。当然この論文に準拠してブログを進めていくので、もし英語力に自信がある方がいたら読んでみるのも良いだろう。

閑話休題

墓場は現在までに3個が発見された*2。どれも複数の動物*3が折り重なるようにして埋葬されており、言うなれば”化石入りバースデーケーキ”である。高さ1~2メートル、直径1.2メートル。ヒトの子供一人がすっぽり入るほどの大きさだ。材質は主に泥岩と火山灰からなる。つまり、かつての墓場はズブズブの泥場だった

中でも標本番号TBB2001TBB2002はよく研究されていて、例えばTBB2002からは5頭・3種類の小型獣脚類が発見されている。うち1頭は未記載・詳細不明なれど残る2種は違う。では墓場の犠牲者筆頭の彼らに登場していただこう。拍手喪服でお出迎えください!!

 

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グアンロンの骨格図。細長い手足と鋭い鉤爪、そして目立つ鶏冠が特徴

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リムサウルスの骨格図。小ぶりな頭骨と極端な長さの手足が特徴

 グアンロンは肉食*4で全長は約3~3.5メートル、 リムサウルスは雑食および植物食*5で全長は約1.5メートル。一口に小型獣脚類と言っても、外見・生態はかなり異なる。それぞれ個別に記事立てするので、ひとまず置いておこう。

また、その他の墓場からは、全長20~30センチの小型ワニ類やカメ、哺乳類の仲間も確認されているらしい。こうした小動物は本来化石に残りにくい*6ため、ここ石樹溝層は生態系の頂点(メトリアカントサウルス類)から足元まで、その大部分をうかがい知れる貴重な場所としても有名となっている。なお小型獣脚類は世界的にも発見数が少ない*7ので重ねて貴重だ。

 しかし何故バリエーション豊かな動物たちが一か所に集い、そして揃えたように折り重なっていたのか?

それに対する一つの回答が、この写真だ。

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沼地に嵌って命を落とした野生馬たち。平たく言えば”恐竜の墓場”も同じようなものである ©CNN

 これは2018年の北米・アリゾナ州で起きた悲劇である。この年アリゾナは深刻な旱魃に襲われた。結果、同地に生息する野生のウマたちが水を求めて彷徨い、弱った末に水の枯れた”ため池”。つまりドロッドロな沼地へウマは入り込んでしまい、やがて衰弱死してしまったのだ。犠牲になったウマは200頭もおり、規模だけなら”恐竜の墓場”より大規模である。

なるほど。水場なら飲み水や食料を求めて多数の動物たちが集まるだろうし、一部が判断を誤って深みに足を取られることもあったはずだ。実際、もう少し後の時代にシノルニトミムスSinornithomimus*8が14頭で泥に嵌り化石化したという類似例*9があり、説得力もある。

ウマの大きさ・力強さは言うに及ばず、それでも沼地からは逃れられなかった。これより小さな恐竜たちが嵌ってしまったのも当然至極。あ、これにて一件落ty(……ウン?なにか忘れていないだろうか。

 ……そうだ。アリゾナの”馬の墓場”とゴビ砂漠の”恐竜の墓場”には明らかな違いが存在する。列挙してみよう。

・墓場のサイズ

(アリゾナの事例は直径20m。ゴビ砂漠の事例は直径1m)

・埋葬された種数

(アリゾナの事例はウマ一種のみ。ゴビ砂漠の事例は複数種)

・埋葬様式

(アリゾナの事例は二次元方向にバラバラ。ゴビ砂漠の事例は三次元的に積み重なる)

 これだけの相違点があれば、すんなり片づけるわけにはいくまい。

加えて恐竜の墓場にはゾッとする話もある

 

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グアンロンの亜成体(IVPP V14532)の骨格図。②の論文より

 身体の一部(主に東部や四肢の末端)が紛失しているならまだしも*10、多くの化石が捻じれ、のけ反り……そして

亜成体のグアンロンに至っては首をサバ折りにされていた…

 …恐竜の化石がグニャグニャに歪んだり、バキバキに粉砕されているのは別段珍しいことではない。むしろ変形・破損を受けていない化石はほとんどない。生物の身体には靭帯*11が存在し、それは死後に収縮して遺骸を歪める。死後の靭帯については、キリン研究者の郡司芽久が解説しているので、ソチラを見てもらいたい

ただし今回だけは事情が異なる

思い出してほしい。この墓場は泥岩(と火山灰の混合物)で形成されていた泥岩とは文字通り泥が岩石となったもので、裏を返せば岩石になる前はズブズブの泥だったのだ。つまり亜成体(IVPP V14532)が死亡した際、周りの地面は柔らかい泥場。つまり

もし亜成体の首が死後に破壊されようものなら、その前に遺骸が泥に沈むはずなのだ。

 こうなれば首は折れない。割り箸を布団に置いて踏みつけても折れないのと同じだ。唯一割り箸がポッキリ折れるパターンは、割りばし自身が加圧に抵抗する時のみ。これがどういう事か……分からぬ読者はいるまい。焦らすのもアレなので言ってしまおう。

グアンロンの亜成体は生前に首をへし折られて殺された可能性が高い!!

さぁーーーて。キナ臭くなってきたw

太古の沼地で起きた惨劇とは、いかなるものだったのか……?

ゆっくり紐解いていくことにしよう。

 

 「発見! 恐竜の墓場(2)」へ続く。

 

 

【参考文献】

 ※資料集もチェック!チェック!!

【論文】

「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文

「A basal tyrannosauroid dinosaur from the Late
Jurassic of China」Xu Xing, James Clark (2006)…グアンロンの記載論文

「A new ornithomimid dinosaur with gregarious habits from
the Late Cretaceous of China」Yoshitsugu Kobayashi, Jun-Chang Lü (2003)…シノルニトミムスの大量死

 

【書籍】

・「ホルツ博士の最新恐竜事典」トーマス・ホルツ(著) 2010年
・「恐竜の教科書」ダレン・ナイシュ(著) 2019年
・「恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅」デヴィッド・ワイシャンペル(著) 2015年
・「愛しのブロントサウルス」ブライアン・スウィーテク(著) 2015年
・「恐竜探偵 足跡を追う」アンソニー・J・マーティン(著) 2017年

【Web】

・「Uncovering the Mysteries of China’s Dinosaur Death Pits」(ROYAL TYRRELL MUSEUM OF PALAEONTOLOGY,2021)

「巨大恐竜の足跡が“死の落とし穴”に?」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:獣脚竜グアンロン」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「恐竜の墓場:草食獣脚竜リムサウルス」(日経ナショナルジオグラフィック,2010)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・特集」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・フォトギャラリー」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

「野生の馬が沼にはまって大量死 米アリゾナの先住民居留地」(CNN,2018)

【注釈】

*1:①の論文より

*2:標本番号TBB2001.TBB2002.TBB2005

*3:全長は3m~数十センチまで様々

*4:MH好きには”ランポス”といえば伝わるw

*5:尻尾の生えたニワトリのような生物だった

*6:個体数は多いものの、骨が脆く消失しやすいから

*7:小型鳥盤類のほうがまだしも多い……がこれは白亜紀で逆転したと思われる

*8:全長2mの小型獣脚類。俗に”ダチョウ恐竜”と呼ばれる種類

*9:③の論文

*10:こうした突出部は風雨や死肉食動物に攫われやすい

*11:言うなれば補強ケーブルである