太古の世界 第Ⅱブログ

目を閉じて……ほら恐竜がいるよ

発見! 恐竜の墓場(2)

【発見! 恐竜の墓場】~周囲の環境

 

 番外編の資料集を挿み、やってきました(2)へ。

ここ(3)では、グアンロンやリムサウルスを取り巻いていた自然環境。つまり…

石樹溝層(Shishugou Formation)古環境(Paleoenvironment)

をジックリ見ていくとしよう。

(# ゚Д゚)「んな小難しい話はどーでもいいから、恐竜の墓場の真相解明はよ!!」

という読者もおられるだろうが、まぁまぁ焦らないで……まずは外堀から埋めたほうが分かりやすい、なんて事もある。暫しお付き合い願いたい。

 

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石樹溝層の位置。 wikimedia commons File:Wucaiwan locality.jpg を改変

石樹溝層のい・ろ・は

 まずは「石樹溝層とはなんぞや…?」 この疑問から答えていこう。

en.wikipedia.org

(グアンロンやリムサウルスの産出した石樹溝層(Shishugou Formation)のWikipedia

英語版Wikipediaに都合よくまとめられていたので、これを翻訳・要約したい。

  • 今から1億6500万年前から1億5500万年前ジュラ紀*1・中国北西部は現在のウイグル自治区、そこのジュンガル盆地に堆積
  • 主に赤みの強い泥岩(Mudstone)から形成され、さらに凝灰岩(Tuff)や砂岩(sandstone)、礫岩(conglomerate)も含まれる。
  • 堆積層の厚みは約380メートルあり、地層の下部30メートルを構成するのは礫岩。そこから上を泥岩などが占める。

 とりわけ重要なのは、かつてのジュンガル盆地にはジュラ紀中期~後期にかけて大規模な水辺*2と活火山の存在が示されることだ。これは後々墓場の謎を解くヒントになるため、よく覚えておいてほしい。

 

それでは前提知識は行き渡ったとし、いよいよ石樹溝層の古気候・古環境を見てみよう

【石樹溝層の古気候*3

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森林と湿原の混成環境。当時のジュンガル盆地もこのような風景だったかもしれない Wikimedia Commons File:Heiligengeistsattel wetland.jpg

 

ケッペンの気候区分に照らし合わせれば、おそらくサバナ気候ないし地中海性気候に当たると思われる。 なぜなら骨化石や植物化石(Agathoxylon)の研究がそれを示しているからだ。まず骨化石の研究から見てみよう。

Dinosaur taphonomy of the Jurassic Shishugou Formation (Northern Junggar Basin, NW China) – insights from bioerosional trace fossils on bone 

フェリック・アウグスティン(Felix J. Augustin)とアンドリュース・マズケン(Andreas T. Matzke) が2021年に出した論文によれば、石樹溝層から発見された恐竜の骨に穿たれた昆虫(カツオブシムシ)の摂食跡を元に次のような報告をしている。

「死骸を昆虫が分解していたという事は、つまり骨が土砂に埋まる前に数週間は野ざらしにされていたことを示している。また、こうした痕跡は周囲が乾燥しているほど作られやすい

つまり乾燥した気候が数週間は続いていたことがわかる

 

では乾燥帯だったのかと聞かれたら、それは違う。

なぜなら石樹溝層からは35種類以上の動物が報告されている。中には水辺から離れられないカメ類のシンジャンケリス(Xinjiangchelys)や莫大な植物資源を必要とする大型恐竜*4も含まれる。これらは一定の水資源がなければ存在できない

しかも発見される植物化石にも水気の多い土地を好むシダ類*5とトクサ類*6が多い。現代でもシダは木陰・物陰のジメジメした場所に、トクサは田んぼの脇などに見られることから、読者も実感できるだろう。

 そこで!!引っ張り出すのが(Xu-DongGou)と (Hai-BoWei)*7が2021年に書いた次の論文。

Leaf phenology, paleoclimatic and paleoenvironmental insights derived from an Agathoxylon stem from the Middle Jurassic of Xinjiang, Northwest China

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ナンヨウスギ科の)アラウカリア・ミラビリスの化石。この標本は南米から発見されたが、よく似た種類が繁茂していた FPDMデータベースより

この論文は同地から掘り出されたナンヨウスギ科の生理学的な特徴に、当時の気候と環境を見出している。詳しい話は省くが、ともかく(やや乾燥した)熱帯雨林に生える植物……それがナンヨウスギ改めアラウカリアの仲間*8なのだ

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現生のナンヨウスギ改めアラウカリア。現代では南半球に生育する Wikimedia Commons File:Araucaria araucana Lanin.jpg

まぁ、反則気味だが最初っから「石樹溝層は主に泥岩から形成される」とも書いたように、周辺には大きな水源があったのは間違いない。どのような環境だったにせよ当時のジュンガル盆地は……

カラカラとした日が続く乾季と

ジトジトとした日が続く雨季

の二つが組み合わさった世界だったのだ。そしてこうした環境は、先に述べたようにケッペンの気候区分ではサバナ気候ないし地中海性気候に当たる。夏と冬どちらに降水(おそらくモンスーンによる激しい雨)があったのかは定かでない。だからこれ以上は掘り下げにくいので、次へ話を進めよう……。

 

【石樹溝層の古環境*9と植生】

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アマゾンの熱帯雨林。ジャングルと淡水の組み合わせの典型例だ Wikimedia Commons File:River in the Amazon rainforest.jpg

 ここまで読んでいただければ、一帯の環境もおおよそイメージしやすい。火山のふもとに広がる大規模な湿原。植生において支配的だったのは高木のアラウカリア下草のシダやトクサ。一年の半分はこれらが繁茂した雨季。もう半年は水辺が縮小し、下草が枯れ、かつての湖底が泥だらけのぬかるみと姿を変える乾季

  • エクイセタ科(Equisetaceae)…下草(トクサ類
  • コニオプテリス(Coniopteris)…下草(シダ
  • エラトクラデス(Elatocladus)…低木(針葉樹
  • アングロプテリス(Anglopteris)…3~15メートルの木生シダ
  • アラウカリアの一種(Agathoxylon)…高木ナンヨウスギ科

 ひとまず植物だけ抜き出してみた。もちろん全ての植物が化石になるわけがないので、実際にはもっともっとドッサリ生えていたに違いない。ただし草本類はジュラ紀に存在しなかったと思われる。こうした正真正銘の”ぺんぺん草”はどんなに早くても白亜紀からの参戦だった。

 まだ書き足りない思いもある……が、危ない危ない。悪い癖だ( ^ω^)……これ以上は冗長になって締まりが悪いので、(2)はここで閉店ガラガラ店じまい。また「発見! 恐竜の墓場(3)」で会おう!!

 

「発見! 恐竜の墓場(3)」へ続く。

 

 

【参考文献】

 

【論文】

「DINOSAUR DEATH PITS FROM THE JURASSIC OF CHINA」David Eberth, Xu Xing, James Clark (2010)…恐竜の墓場の論文

「A basal tyrannosauroid dinosaur from the Late Jurassic of China」Xu Xing, James Clark (2006)…グアンロンの記載論文

「Dinosaur taphonomy of the Jurassic Shishugou Formation (Northern Junggar Basin, NW China) – insights from bioerosional trace fossils on bone」Felix J. Augustin, Andreas T. Matzke (2021) …骨の分解・化石化の過程*10から探る石樹溝層の環境

Leaf phenology, paleoclimatic and paleoenvironmental insights derived from an Agathoxylon stem from the Middle Jurassic of Xinjiang, Northwest China」Xu-DongGou, Hai-BoWei (2021) …絶滅植物(Agathoxylon sp)から探るジュラ紀中期の古気候*11と古環境*12

 

【Web】

 ・「Uncovering the Mysteries of China’s Dinosaur Death Pits」(ROYAL TYRRELL MUSEUM OF PALAEONTOLOGY,2021)…ロイヤル・ティレル博物館の”恐竜の墓場”の解説ページ

「進化の謎を解く 恐竜の墓場・特集」(日経ナショナルジオグラフィック,2008)

・「福井県立恐竜博物館 標本データベース アラウカリア・ミラビリス

「野生の馬が沼にはまって大量死 米アリゾナの先住民居留地」(CNN,2018)

・「野生の馬が大量死、熱波で水場干上がる オーストラリア」 (CNN,2019)

 

【書籍】

・「ホルツ博士の最新恐竜事典」トーマス・ホルツ(著) 2010年
・「恐竜の教科書」ダレン・ナイシュ(著) 2019年
・「恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅」デヴィッド・ワイシャンペル(著) 2015年
・「愛しのブロントサウルス」ブライアン・スウィーテク(著) 2015年
・「恐竜探偵 足跡を追う」アンソニー・J・マーティン(著) 2017年

 

【注釈】

*1:地質時代ではカロビアン(Callovian)~オックスフォーディアン(Oxfordian)にあたる

*2:しかも流れのゆるい湖・湿原・沼地

*3:学問上はpaleoclimatologyという

*4:竜脚下目マメンチサウルス・剣竜下目ジアンジュノサウルス・獣脚亜目メトリアカントサウルス科etc

*5:コオニプテルス(Coniopteris)・オスムンダ科(Osmunda)etc

*6:エクイセタ科(Equisetaceae)など

*7:どなたかアルファベット表記された華人の人名の読み方を教えてくださいぃぃぃぃぃ

*8:ジュラ紀の中国で言えばAgathoxylon

*9:学問上はPaleoenvironmentという

*10:専門用語はtaphonomy

*11:学問上はpaleoclimatologyという

*12:学問上はPaleoenvironmentという