太古の世界 第Ⅱブログ

目を閉じて……ほら恐竜がいるよ

系統ブラケッティング法

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 これは古生物学における推測のやり方の1つだ。

知っての通り、恐竜をはじめとした古生物は現存していない。だから彼らの行動・生態の多くは永遠に謎のままだ。観察が可能な現生動物でさえ、日々新しい発見が生まれ、定説がごみ箱へダンクシュートされている。つまるところ…

「絶滅動物の行動・生態を推測するのは危険!!」

なのだ。それを理解しないでいると想像が独りよがりに突き進んでしまう。人によっては、それを「妄想」と一蹴するだろう。

仕方ないことではあるが、そう邪険に扱うなとも思う。だって…ねぇ?

 「絶滅動物の想像・考察は楽しい!!」

 ではないか。

 筆者もそうだ。

  • 飢えたティラノサウルスが、どうやって危険なトリケラトプスを倒したのか?
  • 巨大かつ半水生のスピノサウルスが、どうやって繁殖していたのか?
  • ケファラスピス*1が、どうやってウミサソリの攻撃を躱したのか?
  • 長い首のタニストロフェウスが、どんな姿勢で睡眠をとったのか?
  • スミロドンは単独で生きたのか、それとも群れだったのか?

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群れを成すユタラプトル

実際にはドロマエオサウルス類自体、群れていたかは議論が絶えない

「蘇る恐竜の時代」より ©ディスカバリーチャンネル

ちょっと考えただけで、疑問はこーんなに湧いてくる。

時に、都合良く化石に残った行動もあって…

  • プロトケラトプスに襲い掛かったまま化石化したヴェロキラプトル
  • 休息姿勢のまま化石化したメイ・ロン

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休眠姿勢で化石化した小型獣脚類のメイ・ロン

ちなみに学名の語尾に付く「g」は発音しなくても良い

「恐竜vsほ乳類」より ©NHK

こういった奇跡的な材料を元にすれば、まぁまぁ見えてくるものもある。

とはいえ、それらは例外中の例外。大半は藪の中になってしまう。

 

そんな読者にコレを薦めましょう!!

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系統ブラケッティング法

古生物学における推測の”確度”を上げる方法

「恐竜研究の最前線 謎はいかにして解き明かされたのか」(マイケル・ベントン, 2021)のP14~P16 より

 系統ブラケッティング法とは、要するに「近縁種からの推測」である。

  1. 生物・古生物の家系図を作る
  2. 判明している事柄を書き出す
  3. ”虫食い穴”の部分を周辺に揃える

↑に大雑把な手順を書き出した。…ナルホド、こりゃあ使い勝手が良い。実際の古生物学でも、例えば「恐竜色覚」は、系統ブラケッティング法によって導かれた。*2

 

(*´ω`*)ヨッシ!!…コレデスイソクシホウダイ……

 と★思★っ★て★い★た★の★か!?(威圧)

実は、系統ブラケッティング法も万能ではないどころか、致命的な欠陥もある。

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系統ブラケッティング法の”落とし穴”

この図を見れば、系統ブラケッティング法のマズさが分かるだろう。

たしかに現生のネコ科は殆どが単独性だ。トラもヒョウもサーバルベンガルヤマネコも、もはや周知の事実と言えよう。 しかしライオンだけは違う。*3 ライオンは群れで暮らす。しかも群れのシステムはオオカミに匹敵する複雑さだ。

ところが系統ブラケッティング法に、そうした特異的な形質・性質を見抜く力はない。

それに改めて列挙してみれば…

  1. 生物・古生物の家系図(系統図)を作る 家系図は確実なのか?」
  2. 判明している事柄を書き出す ←「現生動物でさえ確実な情報は少ない」
  3. ”虫食い穴”の部分を周辺に揃える 

系統ブラケッティング法の道中にも異論が挟まれる余地があるし、「子孫Aは行動Xをする」が「子孫Bは行動Xをしない」なんて相反するパターンもあろう。

とどのつまり、系統ブラケッティング法も何でも”物は使いよう”なのだ。


だからこそ筆者は声を大きくして言おう。

「古生物の推測は慎重に!!!」(*'ω'*)9

 

【参考文献】

・「恐竜研究の最前線 謎はいかにして解き明かされたのか」マイケル・ベントン(著)2021年

・「恐竜の教科書」ダレン・ナッシュ(著)2019年

・「恐竜の世界 恐竜発掘の歴史から、恐竜研究の最前線まで」金子隆一

(著)2010年

 

*1:甲冑魚の一種

*2:「恐竜の教科書」(ダレン・ナッシュ, 2019)のP23

*3:オスのチーターも群れるとされているが、ここでは省略